エロゲ、ノベルゲ英語学習最強ツール仮説

エロゲ、ノベルゲ好きオタクの語学実験記

ATRI 英語でプレイしてみた感想

2本目の英語エロゲ、ノベルゲ:ATRIクリアしました

 


公式サイト

https://atri-mdm.com/en/


評価

満足度 70
英文難易度 C(普通)

 

 


はじめに

「原因不明の海面上昇によって、地表の多くが海に沈んだ近未来。」(公式より引用)

 


母親を失い、脚を失った主人公。学校では孤立し歩んでいたエリートコースからドロップアウトして失意の中で帰ってきたそこは近未来的、幻想的、退廃的、田舎的情緒漂う故郷。そこはどこか世紀末的雰囲気を讃えつつも、逞しく生えている雑草のように素朴で暖かい人たちが今日も生活している。周りの人たちの優しさや海底で出会ったヒューマノイド、アトリとの交流を通して、癒しと人間関係の学びを得て主人公は再び前を向く。その成長は諦めず滅びに立ち向かう人間の姿に重なっていくかのよう。そんな彼に大きな影響を与えた一人のヒューマノイドアトリのお話。

 


・・・となんとかテンプレっぽい前書きをしてみようと頑張ったのですが、雰囲気が伝われば幸いです。逆に言うとなんでそんな忖度めいたことをするのかというと、この後感想欄で主にシナリオ面について酷評気味に語るつもりだからです。しかしそんな私個人のシナリオ評はひとまず脇に置き、まず全力で賞賛したい点から触れます。それはビジュアルです。ここはもうさすがアニプレックスさんとしか言いようがないです。それもロープラであるという点も考慮に入れると脱帽するしかないレベルです。エロゲ、ノベルゲは時々紙芝居呼ばわりされますが、これ自体は蔑称かどうかという言葉の問題でしかなく、特徴の指摘としては正しいでしょう。問題は紙芝居という媒体の可能性の追求であり、こうした映像や音響に力を入れるメーカーの業界への参入は、紙芝居というジャンルのアップデートを促す一石になりそうで、このジャンルを愛する者としては非常に嬉しいです。シナリオ面においては、ドラマ性やカタルシスは個人と作品との相性が大きいと思われるのですが、このブログ執筆時点でsteamでも批評空間でも全体的にかなり好評のようです。もっとも私の感想は全体の傾向とは違うようです。せっかく個人でブログをやっているので、後程思いっきり書いてしまおうと思います。

 

 

語学的観点からの雑感

英語表示、日本語表示、さらに同時表示可能というインターナショナル配慮全開なシステムで語学的には最高と言うしかないです。英文の構文、文法的難しさは特にないと思いますが、語彙が地味に時々キツイ。潜水艦の運転シーンなどSF要素がある作品にはつきものですが、専門性の高い語彙や表現が散見され、英文のみだと読みづらくちょっと苦しかったです。そんな時は日本語訳を表示したり、時々辞書で調べました。

しかし何はともあれ、このワンタッチで言語表示を自在に切り替えられるシステムは本当最高です。難易度に応じて、日本語と同時表示にしたり、ちょっと疲れたらしばらく日本語だけで読み続けるといったような柔軟な対応を可能にしてくれるため、無理なく英語で集中してゲームを楽しむという行為に没頭できます。本作は長さ的にも短いので(それでも英語でやると長く感じますが)語学的にも向いていると感じます。前回やったISLANDの場合、後半かなり息切れ気味でしたが、今作は潜水艦で潜ってる時とかSF的シーン以外はもう少し楽に読めました。

 

個人用語彙メモ

・cantankerous:kæntǽŋkərəs 〔人が〕怒りっぽい、口論好きの、気難しい
見たことない単語。・・・というのは日常茶飯事。実用的にはもっと簡単な言い換えで済ませられそうな単語なのは百も承知ですけど、時々こういう語を拾いたくなるんですよね。基本アウトプット能力より読む能力を高めたい私的には特に。ちなみに乃音子(主人公の祖母)の性格描写の時に出てきました。

 

・pier:埠頭、桟橋、岸壁、防波堤
作品の舞台設定からしていっぱい出てきますね。知ってはいるけどそれだけ、みたいな状態の単語がこんな風にたくさん出てくれると本当に馴染みが出てきます。

 

・stick (stand) out like a sore thumb:(周囲の物・人々と異なり(悪い状態で))ひどく目立つ、場違いである
キャサリンへの描写で出てきました。序盤で派手目ミステリアスな彼女のルックスが町で浮いているところを主人公が独白してました。

 

・born and bred:生粋の、生まれも育ちも;(be ~) 生まれ育つ
これもキャサリン。名前偽名だろ・・・という主人公の心の突っ込み
She's very obviously completely Japanese, born and bred.

 

・inundate:(場所を)水浸しにする;(人や場所に)殺到する、押し寄せる
(場所に)殺到するの方の意味しか知らなかったので勉強になりました。この作品の世界観そのものですよね。舞台となっている場所が水浸しになっているおかげでこれは強く印象に残りそうです。

 

・repossession order:回収命令。借用書
後半うやむやになっていたけど結局祖母が残した大量の借金はどうしたんだろう…と重箱の隅をつついてみたくなったり。

 

・at the best of times:〔条件などが〕最高に良い時でも、絶好のタイミングでも<【用法】通例、否定的な意味の文章で用いられる。>
I have hardly any money at the best of times, ...
高額な借金を返すあてなどないし(どんなにお金がある時でさえ俺が持ちうる金額などたかがしれているし)

 

・turf:芝土(芝生の葉と根で構成される、芝地の地面の表層を指す。);(運動場などの)人工芝

a little turf of hair=アホ毛

 

・petulant:短気な、こらえ性のない、不機嫌な
"There you go again, acting like a petulant child. Bad boy! Bad Nacchan!"
「また出ましたね、夏生さんの駄々っ子。駄々っ子なっちゃん!」

 

・high performance:高性能(ですから!)
アトリの口癖。でも地味に奥深く、名詞的にも形容詞的にも使えます。
名詞はいいとして、形容詞的に使う場合、名詞を修飾する限定用法として使うならば、基本的に間にハイフンを入れます。 
"I see. A number befitting of a high-performance model like me. Very satisfying."
(序盤のシーン。アトリを売ろうとするとき、ジャンク屋で思いのほか高額で売れることが判明して、その数字にどこかご満悦だった場面での一言。)

 

一方、叙述用法として使う場合はハイフンはなしとなるようですね。
"Now you realize how high performance I am, right?"
(高性能ですからムフン!と言っているシーン) 

 

 

 

 


作品についての感想

冒頭でも触れましたが絵がもう最高なんです、本当。
CG自体が美麗なのですが、センスが素敵なんですよね。
リアルテイストな要素から線画を強調したアーティスティックな要素が混然一体としたビジュアル観で貫かれています。さらに背景も、要所要所でスライドさせたりズームさせたり複数枚を連続的に切り替えていったりと映像の力を少しでも引き出そうという努力が随所で伺えます。基本私はテキストフォーカスなタイプですが、今作は思わずビジュアル面に意識を奪われました。

 


個人的に好きな背景をいくつかだけ挙げてみます。(正直な話ほとんど全部が好きなくらいですが)

 

 

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この船に住んでいて、この船で仲間と共に潜水艦を曳航しながら海原に向かい、一仕事終えて帰ってくる・・・。そんな青春群青、SF、退廃さなどが濃縮したシーンの背景画です。こういうのたまらないです。

 

 

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美麗なCGばかりかと思えばこういう描いている感を前面に出した背景もまた効果的で素敵だと思うんですよね。

 

 

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小道具とかまで味がある

 

 

 

…とこんな感じでどれもこれも秀逸です。

 

 

 

あと音楽も素晴らしいです。個人的に松本文紀さんの音楽がすごく好きで、本作でもその才をいかんなく発揮されていました。BGMの「さぁ、海へ!」はFrontWingのろけらぶの「逃げ水を追いかけて」のアレンジだなとすぐ気づきました。

 

 

 

以下シナリオについて

(ネタバレ+今回は酷評気味ですので読まれる際はどうぞご注意ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、映像や音楽については大満足しているのですが、シナリオに関してはというと実は私は別に感動しませんでした。綺麗にまとまっているし、感動のツボも押さえているのだろうと思うのですが、私にはそれが教科書的、パターン的で予測の範疇にありすぎたと言いますか…。いや、もっとも感動自体にパターンがあったとしても、感動するものは結局感動するため、じゃあ原因は何かなと分析してみると、どうも本作の感動はアトリをどのくらい愛おしいと思えたか、あるいはどこまで主人公に自分の心を寄せていけたかにかかっているようで、自分はそれがあまりできなかったためだと思われるんですよね。

私は主人公にほとんど同情できませんでした。同情というのは無条件では決して発生せず、あえて同情しようという主体的な意志や自然発生的意志を除けば、条件があります。それは人それぞれでしょうけど、基本的に私の場合対象に魅力があるか、あるいは対象がもう明らかに不幸で生きづらさを感じているかがその条件に相当します。この主人公は、母を亡くし、脚を失くしていますが幸い知能には恵まれています。その知能で人を見下しながら生きて自業自得的に学校での立場がなくなっていき、失意の中ドロップアウトして故郷にやってきます。するとそこには優しい幼馴染もいるし、なんといっても天使のようなアトリがいます。つまりなんだかんだでそんな状況でも選択肢は多く、事実割とすんなりと色んな人に頼られ尊敬までされていきます。恵まれている部分もそれなりにあり、何かこう絶望的な生きづらさを彼からは感じられません。そのくせ根暗で傲慢な甘えたなのでいまいち同情心が沸かないんですよね。もっと何かポジティブな明るさとか優しさとか、憎めなさみたいなのがあるとか、あるいは特段知能にも恵まれていない中で母と脚を失っていたとかなら本当に生き辛いでしょうから同情心も沸くのですが。そこに都合よくひょっこり現れるアトリはかわいいけどあざといというか、後のシナリオ展開がこの時点で透けて見える感じがしてしまって、終始この二人のやり取りを外から眺めているような感覚でした。ファントムペインが辛い、母を失くして辛い、父が振り向いてくれなくて辛い、学校で孤立して辛いという主人公の不幸に無邪気に一体化しながら、アトリの優しさ、可愛さに存分に甘えることではじめて、アトリに心がなかったことを知るあの衝撃的シーンがよりダイレクトなダメージとして響くのでしょうし、さらにアトリが心を得たシーンでの感動も大きくなるのでしょう。本作はアトリが可愛い、愛おしいと思えた人ほど楽しめるもので、そのためには主人公に抵抗なく憑依できたかどうかがかなり重要である、と私には思われるのです。

私がシナリオに感動できなかった理由を作品側ではなく、主人公に感情移入できなかった私の想像力の弱さ、あるいは狭量さに帰することも可能でしょうし、実際それは無視できないと思います。しかしこの観点は自己反省であり、作品批評とは別ジャンルでしょう。認識さえ変えればなんでもよくなるならば、作品批評の意義もなくなってしまいます。ですのであえてそれを臆面もなく棚に上げさせて頂きました。

 


さて上記から察せられるとは思いますが、私の場合、基本的にはアトリではなくて主人公を好きになれなかったのがおそらく楽しめなかった最大の敗因でした。なので主人公が違ったらもっと楽しめた可能性があるのですが、それ以外で楽しめる可能性として思いつくのはゲームのジャンルあるいは方向性が違ったら・・・というものが考えられます。このゲームがなまじシナリオゲー的な体を装っていなくて、もっと開き直ったっキャラ萌えゲーという雰囲気を前面に出していたり、あるいはいっそ18禁化した上で抜きゲにするとかならありだったかもしれない。それならばアトリは甘やかせバブミ属性を持ちつつ、普段はポンコツで可愛いというプレイヤーへの優越感を提供することも忘れない自他ともに認める高性能なキャラに仕上がっていたかもしれません。しかしシナリオゲー、いわゆる感動へ持っていこうとする作品ならば、これら属性は都合がよすぎるため、余程主人公に感情移入できない限りなんだか薄気味悪くさえなってくるのです。

 


作品の考察性についての私見も加えておきます。
AIの心あるいは意識の獲得というのはよくテーマになり、その答えの出し方は様々あって面白いのですが、本作はそういう考察機会を与えてくれる考察物かと言うと個人的には全然そう思いません。アトリが心を得る過程に関する描写のボリュームが非常に少ない上、その獲得が急展開的だからです。その顛末をざっくり要約すると、そもそもアトリはなぜだか知らないけどすでに心は持っていたが、本人がないと思い込む(あるいは思い込まされてきた)ことで抑圧していただけで、それを主人公の一言がきっかけで解放することができたので感情を獲得しました。それだけです。
本作はAIの可能性を「考え」させるものではなくて、もしAIが心をもったらどうなるかを「感じ」させる作品だと言えるでしょう。そしてそれを味わうには前述のようにアトリへの愛情と主人公への自然な憑依が不可欠です。

 


最後に改めて、できるだけ客観的に作品を振り返ってみます。

おそらく本作は良作の部類に入るのは間違いないです。映像とか抜きでシナリオだけとってみても平均は確実に上回っているでしょう。紺野アスタ先生ですし。自分なりに高評価できなかった理由を分析してみた訳ですが、数年前にやっていたら正直違ったかもしれません。主人公が好きじゃないというだけなら、私の性格などそうそう変わらないはずですから数年前も同じように思うのかもしれませんが、でもおそらくそれでも楽しめたかもしれないと思うのです。すると結局は冒頭で触れた通り、シナリオのパターンを脳が予知してしまったことも、主人公に感情移入できずあまりアトリに愛着を持てなかったこと併せて少なからぬ要因だったのでしょう。
これまで重ねてきたエロゲ、ノベルゲのプレイ体験による予知が無意識的に働いてしまい、作品の終わり方やプロセスまでも予測してしまって、その通りに進行していく度にあぁやっぱりなという落胆を主人公にぶつけていったためそれが一層主人公への憑依を難しくさせていたのかもわかりません。作品側は世界観にしろ扱うテーマにしろ明らかに非日常を積極的に取り扱うことで感動を志向しているはずですから、それがお約束の日常としか私の脳が解さないならフラストレーションが溜まるのも無理はないでしょう。本作はエロゲ、ノベルゲ初心者にはかなりお勧めできる、という声をところどころのレビューで見ましたが私も同感です。

 

 

 

少々ネガティブ調に書いてしまいました。
感動しなかった人もいるんだなぁくらいに適当に流して頂ければ結構でございます。
ただ映像、音楽といった外的表現部分は絶賛した通りの出来栄えです。本当にそれだけでもやってよかったと思えました。

なにより本ブログ主旨でもある語学ツールとしてのエロゲノベルゲという観点からは、日本語表示、英語表示、両言語同時表示が自在にできるシステムは垂涎ものなので、この点でもプレイできたことには超感謝しています。

 

 

 


キャラについて一言

 


・アトリ
可愛いです。
感想でディスり気味なことを言っておいて一見矛盾しているのは認めますが、本当に可愛いんです。声優さんの演技も素晴らしいです。かなりハマっています。
でもよく考えたらもう可愛いとしか言いようがないキャラ造形。
Steamで海外展開して、海外のユーザーからの評価も高いし、このテンプレkawaiiも本当に国内外に広く受けるために作られていたのでは・・・。
ビジュアルの演出力やわかりやすさを武器に資金力などで広く浅めにアプローチすることに秀でる企業の力で、アングラ文化のエロゲノベルゲ界の深さが、こういう機運の中で埋め立てられてしまわなければいいなとも思うのですが…。

 


・キャサリン
なんか知らんがめっちゃいい人間。
最初の借金取りも堂に入っていたけど、後半は教師にクラスチェンジというか本職に戻る。素敵なキャラだと思います。

 


・水菜萌
主人公曰く前世でよほど徳でも積んだのか・・・とのことだがまさしくそんな感じの超善人。アトリに尽くされその後生涯水菜萌に尽くされ…でも今わの際にはアトリを選ぶ主人公。最後は美しいCGと共にATRIと二人でさもハッピーエンドのように幕を閉じるけど、水菜萌好きな私としてはここに物凄く引っかかってしまうんですよね。

 


・竜司
最初敵対的なところからのツンデレ的展開で親友になるナイスガイ

 


・凜々花

騒がしいだけの元気っ子・・・という最初の印象からのギャップがすごい知的な子。本を読んでいるあの一枚絵の目の知的さよ。

 

 

・・・あれ、婆ちゃん以外天使ばっかりじゃないか